輝く鬼は奇しく笑う

妖しく怪しく奇しく

ミカンとボクと、時々、オフトン

 

お前何言ってんだシリーズその1

先に言っておくが、タイトルで釣っただけだ。

 

 冬と言えばみかんとこたつをイメージする人もいるかもしれないが、僕はそうではない。いや、正確にはイメージはできるが、こたつが僕にとって身近なものではないと言うべきか。というのも、僕の実家ではこたつは使わなかった。それにこたつがあったとしてもこたつがあるのはリビングだ。僕は家族とあんまり仲が良くないから、家にいるときは基本自分の部屋にいる。そうなると自分の部屋で孤独や寒さと戦わなければならない。

 自分の部屋で効率的に暖を取る方法は二つある。ストーブの前に陣取るか、ベッドと掛け布団の間に陣取るか、である。僕の答えは常に決まっていた。ベッドと掛け布団の間である。ストーブの前も捨てがたいものがあるけれど、ストーブの前で暖を取るのに調度良い温度を保つのは意外と難しい。近すぎれば暑くなり、遠すぎれば寒くなる。鬱陶しさと優しさを兼ね備えた親に似ている。その点ベッドと掛け布団の間は簡単なものだ。ベッドに入った瞬間こそ驚くほどに冷たいが、その後すぐに暖かくなってくれる。ツンデレだ。さすがメインヒロインと言わざるを得ない。

 ベッドに入ることで一つ問題が発生する。そう、みかんである。ベッドに入ってしまった以上みかんは食べられない。なぜならみかんを食べるには皮を剥かなければならず、剥いた皮の欠片が自分の寝床を汚してしまうからだ。そして剥いた皮を置く場所も同時に必要となる。ましてや僕はみかんのスジを丁寧に取る派だ。そんな僕がベッドでみかんを食べてしまえば、ベッドが汚れる危険性は更に高まる。(ベッドの上で皮を剥くとか、スジを丁寧にとか一体なんの話をしていたのか忘れてしまいそうだ。)話を戻そう、みかんの皮を置く場所を部屋の床にすれば万事解決するだろ と思う人もいるかもしれないが、それなら最初からストーブの前に陣取り、みかんの皮を床に置いてみかんを食べれば良い。それにベッドに入りながら床にみかんの皮を置いてみかんを食べるという行為はストーブの前にも気があるような素振りである。そんな 昔付き合っていた人への気持ちを残しつつ新たなパートナーと付き合う みたいなことは僕の美学が許してはくれない。ベッドと掛け布団をメインヒロインとしている以上、こちらを選んだ以上は裏切ることはできない。どうにかしてベッドの上でみかんを食べる方法を見つけ出さなければならない。もはや暖を取ることよりも、ベッドの上でみかんを食べることこそが目的なのだ。

 それから僕はどんな方法があるかを模索し続けた。冷蔵庫から取り出したあの冷たかったみかんは、もうとっくにぬるくなっていた。様々な選択肢は見つかりはしたものの、解決策は見つからなかった。結局ベッドでみかんを食べるためには自分の寝床を汚すしかなかった。僕は無力感に襲われながらみかんの皮を剥き、剥いた皮をベッドの上へと置いた。みかんのスジを取り、スジを皮の上へ置いていく。ベッドと掛け布団を選んだのにもかかわらず、結局ベッドを汚してしまう、裏切ってしまっていることを実感しながら。

 僕は今、ベッドと掛け布団の間に陣を取り、暖を取り、みかんのスジを取り、スジを取り終えたみかんの一粒を手に取っている。僕は一体、どの選択肢を取るべきだったのだろう。